犬の外耳炎
最近本格的に暑くなってきました。
春と夏は皮膚や耳のトラブルが多い季節でもありますので、今回は犬の外耳炎についてまとめてみました。
何か耳でお困りである方の参考になれば幸いです。
耳の構造と耳垢の役割
上図のように犬の耳道は人とは異なり垂直耳道と水平耳道からなります。加えて短頭犬
種(フレンチブルドッグやパグなど)は漏斗状の構造をしており外耳炎を発症すると悪化
しやすい傾向があります。
・耳垢の役割
日々の診察の中で耳垢をよく気にしているオーナー様を多く見ますが、耳垢は必ずしも悪いものではなく以下のような作用で耳道内環境を維持しています。
抗菌作用:細菌・真菌の増殖を抑える
疎水作用:耳道の過度な湿度上昇を防ぐ
自浄作用:耳垢を自動的に外へ出す作用
湿潤作用:耳道の過度な乾燥を防ぐ
外耳炎の原因
外耳炎は様々な原因により上記の耳道環境内バランスが崩れ発症します。
外耳炎の原因分類はPSPP分類で細分化されており、これらに従って原因を治療していきます。
P(Primary/主因): 単体で外耳炎を発症させる原因のことです。外耳炎管理は主因を管理しないと再発を切り返します。
アレルギー性疾患、感染症、角化脂漏症、分泌腺異常、異物、内分泌失調、免疫介在性疾患などが挙げられます。
S(Secondary/副因子): 外耳炎が起こった結果として生じる変化。主因を管理できれば完全に除去できるものです。
細菌、真菌、点耳薬や洗浄による刺激などが挙げられます。
P(Perpetuating/増悪因子): 外耳炎により発生した耳道内構造変化のことです。
外耳炎初期は炎症に伴う前述の4つの耳道内環境バランスの変化ですが内科治療で対処可能です。
しかし、慢性化し耳道内構造変化(耳道の狭窄、分泌腺増多や石灰化、鼓膜・中耳の変化など)が生じると外科治療の介入が必要になる場合があります。
P(Predisponsing/素因): 外耳炎の発生リスクを高めるものです。
慢性化による耳道内構造変化、耳毛、たれ耳、短頭種の耳、耳道内湿性過多(シャンプーや水泳後)、閉塞性病変(ポリープ、耳垢栓など)などが挙げられます。
外耳炎の治療
PSSP分類をもとに、原因治療、炎症治療、耳道内の環境整備を実施していきます。
原因治療:Primary/主因に対する治療を指します。
炎症治療: 点耳薬、内服で炎症を管理します。
耳道内の環境整備:過剰な耳垢、菌に対する洗浄、抗菌治療を指します。
具体的に治療例を挙げてみます。
8歳のトイプードルで約1年間外耳炎の再発を繰り返していた症例です。院内にある耳鏡検査を実施したところ、耳道内奥に耳垢の塊を疑う所見があったため、麻酔下で耳道内洗浄を実施し、点耳薬で治療しました。
上記が洗浄前(右図/奥に詰まっているものが耳垢と毛の塊です)と洗浄後(左図/奥に見える膜が鼓膜で、この後残りの垢も洗浄しました)になります。
現在、実施後3カ月経過しましたが再発はありません。
今回の話を踏まえてまとめると、本症例のPrimary/主因+ Predisponsing/素因は耳垢の塊(異物)で、それに伴いSecondary/副因子の細菌・真菌増殖が生じていました。
また、再発を繰り返していましたがPerpetuating/増悪因子の慢性化による耳道内構造変化は現状の経過を考慮すると可能性は低いと思われます。
本症例はPrimary/主因を麻酔下洗浄と点耳薬による抗菌、抗炎症治療で良好な治療結果を得ることができました。
トイプードルなので体質的に脂漏角化症の可能性も考慮し今後も経過を追っていこうと思います。
よつや動物病院
獣医師 平島